エクート・シル・プルー


僕の雨を愛(め)づる癖は

恐らく母から承(う)けたものだろう


雨の日なら、春夏秋冬、

いつも僕は気分が快いのだ。


雨の日は読書によろしく、

思索にふさわしい。


春雨から五月雨、五月雨から夕立、

秋雨、時雨、冬の雨。

仮令(たとい)、晴天はなくとも、

風静かにして雨滋き国は何処かにないだろうか。


若し(もし)あれば、その国に移り住んで、

僕は再び前世の蛙か

田螺(タニシ)に還元る(かえる)

憧憬と勇気を持ち合わせている


「雨の日」辰野 隆


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昔の文章は美しい。

そしてこういう文章にいたく萌えるとき、

精神的高等遊民、を目指したくなる(笑)


一番悶えたのが

「エクート・シル・プルー!」という言葉。


Ecoute s'il pluie

=「耳を澄ませば雨かいな」

辰野さん訳


直訳だと「雨が降ったら耳を済ませ」で

転じて、疑わしきこと、心もとない、意志の弱い人

のことも指すらしい。フランスの慣用句。


そしてカタカナで書くと100倍可愛い〜

今アルバムを出すなら

「エクート・シル・プルー!」

と付けてしまいそうなくらい好き(笑)


Mon oreille est un coquillage

Qui aime le bruit de la mer 

僕の耳は貝殻さ

海の響きが好きなんだ

(ジャンコクトー)


が一押しだったんだけど


今は雨の音を聞いたら

「エクート・シル・プルー」の言葉が

胸に浮かぶ人でありたい・・・

(=高等遊民)


辰野隆(ゆたか)さん。

フランス文学者で、エッセイストでもあるらしい。

また掘りたい作家さんを見つけてしまったよ、ウフフ


この世ったら、読んでも読んでも

まだまだ素敵な文章がある。

目が見えなくなる前に読み漁りたい。


最終手段としてオーディオブックもあるけど、

さりとて、目より耳が健康とは限らないし

耳のほうが酷使してきた気もするし


一つしかない同じ世界の音に耳を澄ませて、

見える景色を目で愛でて、

誰でもが、それを自分の言葉で語る

そこから煙ってくる香ってくる感性が、たまらないな

なにしろ名刺のよう